ESG 大転換機!米国の潮目変化×EU新潮流 「Booostカンファレンス」開催レポート① トークセッション

イベント概要

開示義務化のその先へ、日本企業が求められる経営意識と次の一手とは?

ESGをめぐる国際潮流が大きく揺れ動く今、企業はどのような未来図を描き、どのような意思決定を行うべきか──。
こうした問いに対する実践的なヒントを探る場として、2025年4月15日に「Booost サステナビリティカンファレンス」を開催しました。

本カンファレンス・レポートで得られる情報

「制度対応」のその先へ。実践的なヒントが詰まった内容

  • 各国(米国・EU・日本)のESG政策の変化と、企業への影響
  • サステナビリティ指標を”戦略”として捉えるための考え方
  • ESGをコストではなく、成長のチャンスとする視点
  • 情報開示の現場で挙がっているリアルな課題に対する打ち手:「経営OS」のアップデートとテクノロジー活用
  • ESG政策の変容をチャンスに変える発想とヒント

①トークセッションでは、グッドスチュワードパートナーズ合同会社 創業者 兼 CEO 水野氏およびBooost COO大我、の2名が「経営者が抑えるべきサステナビリティの最新動向 ― グローバルからの洞察」と題して、アメリカのESG逆風やグローバル企業の事例を交え、サステナビリティの本質的な価値創出について深掘りしています。

オープニング
サステナビリティ2026問題を超えて ― 経営の次の一手とは

登壇者

Booost株式会社
代表取締役
 青井宏憲

2010年よりコンサルティングファームで、スマートエネルギービジネス領域を管掌し、スマートエネルギー全般のコンサルティング経験が豊富。2010年よりこの業界で知見を積み、創エネ、省エネ、エネルギーマネジメントに精通。2015年4月、booost technologies株式会社を設立。Sustainability ERPをローンチし、時価総額5,000億以上のエンタープライズ上場企業を中心に、85ヶ国以上、約2,000社192,000拠点以上(2025年2月時点)の導入を推進。サステナビリティ関連財務情報開示全般の深い知見を持つ。Green×Digital Consortium運営委員。 

単なる制度対応ではなく、経営そのものの変革が求められている

  • SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を取り巻く国内外の状況と、企業経営における課題が語られました。
  • 2026年に義務化される開示制度に対して、「2026年4月の開示義務化は、日本企業の経営を左右する分岐点になる」とし、経営者のリードがないまま担当者任せにしている現状を強く危惧。
  • 単なる制度対応ではなく、経営そのものの変革が求められている」と述べたうえで、SXを企業価値向上のドライバーとして捉えるべきだと強調しました。

トークセッション
経営者が抑えるべきサステナビリティの最新動向
― グローバルからの洞察

登壇者

グッドスチュワードパートナーズ合同会社 
創業者 兼 CEO
 水野 弘道氏

住友信託銀行にて日本国内、シリコンバレー、ニューヨーク等で投融資業務に従事。2003年ロンドンのプライベート ・ エクイティー ・ ファンド、コラーキャピタルのパートナーに就任。2015年 年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) の理事兼 最高投資責任者に就任。その後、革新的ファイナンスと持続可能な投資に関する国連事務総長特使、テスラ社外取締役を歴任した。現在、MSCI Inc.のCEO特別アドバイザー、TNFDの特別アドバイザー、LiveWire Group Inc.の独立取締役、Danone S.A.のミッション委員会メンバーを務める。ハーバード、オックスフォード、ケンブリッジ、ノースウエスタンのビジネススクールのフェローとしてサステナビリティファイナンスの推進に努めている。

Booost株式会社
取締役 COO
 大我 猛

1997年、日本オラクルに入社。ITコンサルティング業務を経て、経営企画を担当。その後、コンサルティングファームに参画し、M&Aによる企業統合コンサルティングに従事。2008年に世界最大級のB2Bソフトウェア企業であるSAPに入社。チーフ・カスタマー・オフィサー、デジタルエコシステム統括本部長などを歴任して、2020年に常務執行役員チーフ・トランスフォーメーション・オフィサーに就任。大企業とスタートアップの共創事業、サステナビリティソリューション事業など複数の新規事業を立ち上げて統括。2023年1月、Booost の取締役COOに就任。

トランプ氏の再登場、すなわち第二次政権の誕生は明らかに逆風になる

水野さんは、過去にはGPIFで最高投資責任者として、サステナブルファイナンスの潮流の構築に深く関与されていました。さらに、テスラ社の社外取締役や、ダノン社のミッション・コミッティーのメンバーを務められるなど、機関投資家と企業の双方の視点を併せ持つ、稀有なグローバルリーダーです。 現在、多くの方々がトランプ政権の動向に注目しており、特にパリ協定からの離脱をはじめとする反ESG的な姿勢、そして近年の関税政策などが話題となっています。こうした状況に、多くの関係者が対応を迫られているのが実情です。そこで今回は、水野氏にこれらの動向をどのように捉えていらっしゃるのか、そのご見解を伺いたいと思います。

トランプ政権については語るべきことが多く、どこから話すべきか正直迷うところです。皆さんも日々のニュースで、まるでアメリカの報道かと思うほどトランプ氏に関する話題が日本でも連日トップニュースになっており、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
私自身が長年取り組んできたESGや気候変動の分野でも、トランプ氏の再登場、すなわち第二次政権の誕生は、明らかに逆風となると感じています。これは否定できない現実です。

なぜアメリカではESGが逆風を受けているのか ー その背景にある3つの要因

 一つ目の要因は、パリ協定からの離脱に象徴されるように、気候変動対策は本来、国際的な枠組みの中で進めるべきものであるという点です。それぞれの企業が取り組みを進めていくことは、もちろん意義深く重要ですが、「気候変動問題の本質的な解決」というテーマは、スケールの異なる話であるとも言えます。
 気候変動への対応には、政策の統一性や多国間での枠組みの整備・進展が不可欠です。私自身もGPIFを退任後、国連のスペシャル・エンボイとしてCOP(気候変動枠組条約締約国会議)での交渉に継続的に携わってきましたが、特にこれからの5年間は最も重要な転換点を迎えると考えています。
 そのような中で、アメリカがグローバルなフレームワークの議論の場に不在であるという状況は、気候変動に関わるリスクを確実に高める方向に作用していると言わざるを得ません。

 もう一つの重要な動きとして、実はトランプ政権が発足する以前から、アメリカ国内ではESGに対する批判的な動きが強まっていました。英語では「politicized」という言葉がよく使われますが、ESGが政治的主張やある種の価値観の表明・押し付けと見なされるようになり、そうした考えに基づく政治サイドからESGへの攻撃が顕在化したことで、一部の州ではESG投資を事実上禁止するような法案が可決されています。こうした動向は、トランプ政権の影響もあり、その勢いがさらに加速している印象を受けます。
 近年では、DEIに関しても言及すること自体がためらわれるような空気感がアメリカ国内で広がっているのが現状です。

 これまで当たり前に行われてきたアメリカのリーダーシップやコスト負担に対する価値観が大きく変化してきています。これまで多くの人々が、アメリカがリーダーシップを取ることや、コストを負担することは当然だと考えていましたが、現在では「これにどのようなメリットがあるのか」「この投資や支出が本当に意味があるのか」といった観点から、短期的なリターンを重視した議論が主流となっています。その結果、ESGや気候変動への投資も停滞しがちです。

さらに、この状況に対してヨーロッパがどのように対応するかも、今後の全体的な動向やダイナミクスを大きく左右すると私は考えています。現在、関税問題などで少し隠れてしまっていますが、気候変動やサステナビリティに関して、今後ヨーロッパとの間で価値観の衝突が起こる可能性にも注意が必要です。

アメリカの影響もあり、ヨーロッパでも変化が見られます。たとえば、オムニバス法案の可決やCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の対応が遅れ、CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)も1年延期が決まりました。
こうした動きを、ヨーロッパ全体ではどのように捉えているのでしょうか。

以前から申し上げていることですが、アメリカはプライベートセクター主導、ヨーロッパは政治主導と言われがちです。しかし、特にヨーロッパに関して言えば、有権者たちが支持していない方向性を政府が一方的に進めることは、現実的には難しいと思います。
つまり、ヨーロッパの動きはアメリカとは関係なく、市民の意志に根ざしています。

一方で、アメリカの動きが影響を与えている点について、ヨーロッパがこれまで進めてきた細かい規制について、少しリアリスティックな方向へシフトする可能性があるという点は良い例だと思います。
特にESGに関して、ここ数年はアメリカとヨーロッパの両側から圧力を受けてきました。アメリカでは政治的な攻撃があり、ヨーロッパでは「グリーンウォッシング」や「ESGウォッシング」と呼ばれる問題が取り沙汰されるようになり、企業が本来の意図で行動することが難しくなっています。こうした状況は、ウォッシングを恐れるあまり、規制が過剰になり、善意の企業活動を萎縮させていることが原因です。 

そのため、ヨーロッパとアメリカは異なる理由でESGやサステナビリティ投資を圧迫していると言えますが、ヨーロッパ側がより現実的な規制にシフトしていくことは、逆にプラスに働く可能性があると思います。
ヨーロッパでは、特に若い世代で市民レベルのサステナビリティに対して明確なコミットメントを持っているので、ペース調整や過剰な規制の修正が起こるかもしれませんが、全体的にはあまり心配していません。

いま機関投資家が求めるべきことは「なぜESG投資を始めたのか」に立ち戻ること

アメリカやヨーロッパの動向を受けて、年金運用機関を含む機関投資家がどのように状況を捉えているのか、そしてその中でファイナンスの流れがどう変化しているのか、についてお伺いしたいと思います。

私はGFANZ( Glasgow Financial Alliance for Net Zero)を立ち上げるために、マーク・カーニーやマイケル・ブルームバーグと一緒に活動をしました。その後もアドバイザーとして関わり続けていますが、こういった大きな業界団体での取り組みを進めることには、特にアメリカで独占禁止法に抵触するのではないかという懸念もあり、進めにくいという空気感があるのも事実です。
さらに、トランプ政権下では、アメリカで事業を展開するいくつかの生命保険会社がGFANZから撤退するなど、業界団体としての推進力が削がれている状況も見受けられます。

一方現時点では、投資家は何をすべきか分からず、現在の市場のボラティリティに対応するので精一杯で、長期的なESG投資を考える余裕がないというのが現実です。
それでも私が投資家と話すときは、「なぜ自分がESG投資を始めたのか」を思い出してほしいと伝えます。ESG投資は、もともと政治的な主張ではなく、企業のシステミックなリスクに対応する「投資家の責任」として始まったものです。
※システミックなリスク:1つの問題が全体に連鎖して、大きな影響を与えるリスク

実際、GPIFでは、毎年世界の運用会社にアンケートを取り、ESGやサステナビリティに関する問題意識やリスクファクターを調査しています。その結果、気候変動などが最も重要なリスクと認識されていることがわかります。これを見ても、ESGは単なるトレンドや社会的な流行ではなく、企業のビジネスリスクに直結していると捉えられているのです。

国連責任投資原則(PRI)が設立された際、明確に「ESG投資はファイナンシャルリターンを妥協するものではなく、長期的にリスクを排除するための手段である」と記されています。したがって、投資家はESG投資の原点に立ち返り、リスク対応を強化すべきです。仮にトレンドが変わったからやめる企業があったとしても、投資リスクの観点からは、むしろESG投資を進めるべきです。

気候変動対策やサステナビリティは、リスクではあるけれどコストではない。

今のアメリカやヨーロッパの国際情勢を踏まえて、機関投資家の原点に立ち返ることを考えたときに、日本企業に対してどのような影響があるか、また日本企業がどのように対応するべきだと考えますか?

アメリカで起きている逆風の背景には、「やりすぎではないか」という反発があるということは事実として存在し、特にDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の文脈でその傾向が強く見られています。 そう考えると、ESGやサステナビリティといったさまざまなテーマの中で、日本では過剰だといわれるような例はそこまで多くないため、日本では淡々と前に進めていくべきだと思います。

また、GPIFでさまざまな取り組みを進めていた経験から言えば、日本の企業や政府を動かすうえで最も効果的だったアプローチは、「〇年〇月までに始まるので、今からやらないと困りますよ」といったスケジュール感を示すことでした。これは効果的でしたが、裏を返せば、そうした考え方で進められる施策は基本的に「義務」や「コスト」の発想しか生み出さないという側面もあります。

私自身は、気候変動対策やサステナビリティは確かにリスクではあるけれど、コストではないと考えています。「再生可能エネルギーへの移行に何兆円もかかる」、「サステナビリティ施策に何千億円かかる」といった議論が出てきますが、仮にそれが企業にとってのコストだとしても、社会全体としては景気刺激効果につながります。 サステナビリティの課題とは、本質的にはシステミックリスクの話であり、それに対処するための製品やサービスを提供できれば、それは企業の成長にもつながります。

ディスクロージャー=ゴールではなく、それを通じて本質的に行動することが重要

これまで機関投資家として、私自身も企業に「情報開示をしてほしい」と求めてきました。であるならば、開示された情報を投資判断に活用しなければ意味がありません。一方で、企業が「投資家のためだけ」に開示しているという意識では、モチベーションも続きません。

だからこそ、自分たちのリスク分析をいかに価値創造につなげるかという視点を持てれば、今のように他のプレーヤーが足踏みする中で、むしろ今が自社成長のチャンスとも言えます。つまり、自分たちが一歩先に進むことで、将来的な優位性につながると捉えることができるのです。

正直、日本の銀行がGFANZを脱退するなど、アメリカの動きに過剰反応しているように見えるケースには少し疑問を感じています。
今のように世界が足踏みしているタイミングで、日本企業が整っているスケジュール通りにディスクロージャーを進め、それを価値創造につなげられれば、後から振り返って「日本企業が一歩先に進めた時期だった」と言えると私は思います。

本質的にサステナビリティを「リスク」として捉え、そこをどうマネージしていくかに真剣に取り組んでいく企業の存在が、これからの日本においても非常に重要になってくるのではないかと改めて感じました。

そのうえで、これまでにダノン社でのミッション・コミッティーに携わられていたご経験や、テスラ社で社外取締役として関わられていたご経験などから、企業がサステナビリティを競争力に結びつけるという観点で、彼らがどのような取り組みをしてきたのか、また日本企業が学べるポイントはどこにあるのか、アドバイスをいただきたいと思います。

〜ダノン社について〜

ダノン社は、ヨーグルトやエビアンの会社として知られていますが、パリに本社を置くグローバルなフード・コングロマリットです。私が関わったのは、同社が経営モデルをマルチステークホルダー型のサステナビリティ重視に転換しようとしていた時期で、その一環として設立された「ミッション・コミッティー」の委員会に参加しました。

特に印象に残っているのが、例えばベビーフードに含まれる砂糖の量を「何年までに30%削減」するというコミットメントです。あえて売上が一時的に下がることを承知のうえで、それでも長期的に「子どもの健康を害する企業は成長しない」という信念を持って進める姿勢に私は非常に感銘を受けました。
こういった信念があるからこそ、たとえば現在日本でも人気の高たんぱくヨーグルト「オイコス(Oikos)」も、元々は欧州で先行して販売された製品で、最初は全く売れなかったのですが、「人々の健康を高める食品は必ず支持される」という信念に基づいて商品開発を進め、成功に繋がっています。
こうした取り組みをシステマティックに行っているのが、ダノン社の面白さであり、マーケットからの評価がすぐには得られない中でも、信念を貫くという経営の姿勢が私は好きです。

〜テスラ社について〜

テスラ社は、元々は気候変動というリスクに対して、EVという手段が必要だという考え方、つまり、「人類にとってのリスクを解決できる企業は儲かる」という考え方に基づいたビジネスから始まっています。
テスラ社自体のミッションは「持続可能なエネルギー社会への移行を加速する(Accelerate the advent of sustainable energy)」というものでありEVから火星開発やロボット、AIに関心が移っているように見えても、軸はぶれていません。

またイーロン・マスクが近年「サステナブル・プロスペリティ(持続可能な繁栄)」という言葉を使っていることも興味深いです。これは、サステナビリティ一辺倒では人々の豊かさや発展を感じられないからこそ、生活の向上や実感を伴う形でのサステナビリティを目指すべきだということを示していると思います。そしてそれが、彼の今のAIやロボティクスへのシフトとも繋がっているように感じます。

サステナビリティに強く取り組むことで得られる大きな2つのメリット

短期的なパフォーマンスだけでは説明できない「第3の軸」としてサステナビリティを持つことで、企業戦略に深みや持続性を持たせられます。

実際に国際的にも非常に明確な傾向となってきています。たとえば、丸井グループの青井社長は、サステナビリティ関連のプロジェクトを立ち上げると、社内で参加希望が殺到して、むしろ選ぶのが大変になるとお話していました。
現在私が役員を務めているハーレー社の電動バイクのプロジェクト(LiveWire)では、経営陣が「EVや電動バイクは本当に投資価値あるのか?」と慎重になる中で、若手スタッフはモチベーションに満ちあふれています。ノースウェスタン大学で授業をしたときも、学生たちは企業がサステナビリティやダイバーシティに本気で取り組んでいないことへ怒りの声をあげています。昨年まではその重要性を訴えていたCEOたちが、急に方針を変えるような姿勢に対して、強い違和感や怒りを感じているのです。
つまり、こうした2つの観点から、新しい世代を企業の中で活躍させていくためにも、サステナビリティの推進というのは非常に重要な意義をもっていると考えます。

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